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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2479号 判決

昭和五一年(ネ)第二四六二号事件控訴人

同年第二四七九号事件被控訴人(第一審原告)

本間英孝

外六名

右七名訴訟代理人

松本昌道

外三名

昭和五一年(ネ)第二四六二号事件被控訴人、

同年(ネ)第二四七九号事件控訴人(第一審被告)

更生会社日本開発株式会社更生管財人

山崎久一

右訴訟代理人

仁分百合人

外三名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

本件各控訴により生じた費用はそれぞれ当該控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一本件建物が区分所有の対象となる六五戸を包含する通称「目黒コーポラス」という七階建のビルデイングであり、第一審原告らが日本開発株式会社から分譲を受けた右六五戸の全区分所有者から選任された本件建物の管理者であること、第一審被告が右会社の更生管財人であること、本件車庫及び倉庫が本件建物の一部であること並びに右車庫及び倉庫について第一審原告主張の各所有権保存登記がなされていることは、当事者間に争いがない。

二ところで、第一審原告らは、前記のように本件建物の管理者であるから、建物の区分所有等に関する法律第一八条第二項により、その職務に関し区分所有者を代理するものであるが、本件訴訟は、第一審原告らが本件建物の区分所有者の代理人として提起したものではなく、自己の名において提起したものであることが、訴訟の経過に徴して明らかであり、その主張するところによれば、第一審原告らは、本件建物中の本件車庫及び倉庫が区分所有者の共有に属する共用部分であり、みずからもこれらについて共有持分権を有し、右共有持分に基づき保存行為として本件車庫及び倉庫につき第一審被告のためなされた本件各所有権保存登記の抹消登記手続を求めるものと解される。

三よつて、進んで本件請求の当否について判断する。

第一審原告らは、本件車庫及び倉庫がいずれも本件建物の共用部分に属するものであり、区分所有の対象とはならないと主張するから、以下この点について考える。

(一)  本件車庫について

1  〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

本件車庫は本件建物の一階正面ロビーから向つて左側の一階部分に位置しているが、右車庫の向つて左側の壁は本件建物の外壁となつており、向つて右側の壁は、車庫の入口の柱の部分から約三分の一は本件建物の外壁であつて、残余の部分はロビーと境を接する外壁となつているが、その壁は巾約27.6センチメートルのブロツクでできている。また、車庫の奥は本件倉庫との間の通路部分及び電気室と接しているが、その部分はブロツクの壁で遮られ、右通路及び電気室に通ずる巾、高さそれぞれ約二メートルの二か所の入口があるが、その入口にはそれぞれ引戸式の鉄製扉(厚さは、通路に通ずる部分のものは約二〇センチメートル、電気室に通ずる部分のものは約5.5センチメートル)がとりつけられている。車庫の入口には、両側の壁に接してそれぞれ本件建物を支える七階まで通しの鉄筋コンクリートの柱(約七〇センチメートル角)があり、右の柱と柱との間には等間隔をおいて右と同様の柱が二本立つている。右各柱には、車両の出入を遮断するため一端が柱に取りつけられ、腕木式に九〇度上下しうる長さ約2.4メートルの鉄パイプが設けられている。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件車庫は、その周囲三面をブロツク壁で仕切つてあつて、本件建物の他の部分と明確に区分されており、本件建物の敷地部分への出入口のみは扉又はシヤツターなどによる仕切りがないが、それは車両の出入が頻繁に行なわれる車庫の性質上やむを得ないところであり、扉又はシヤツターなどがなくても、車庫入口に並んで立つている前記四本の柱及び天井のひさし部分によつて本件車庫部分と本件建物の敷地部分の境界は明確に区分されているものというべく、さらに、前記鉄パイプによる遮閉装置の存在を考慮すれば、本件車庫は、建物の区分所有等に関する法律第一条にいう構造上区分された部分に該当するものというを妨げない。

3  さらに、本件車庫が車庫として利用されていることは、当事者間に争いがなく、前掲各証拠によれば、本件車庫から直接本件建物の外部に出ることが可能であることが認められるのであり、右事実によれば、本件車庫は前記法案にいう独立して建物としての用途に供することができるものに該当するものというべきである。

もつとも、〈証拠〉によれば、本件車庫の壁の内側付近二か所に臭気抜きの排気管があり、また出入口付近の床には排水のためのマンホールが三か所あることが認められ、右排気管及びマンホールはいずれも本件建物の共用設備であることが窺われるが、右〈証拠〉によれば、右排気管及びマンホールは本件車庫のうちのきわめて僅かな部分を占めるにすぎず、右排気管及びマンホールが存在するために本件建物の管理人が日常本件車庫に出入りする必要が生ずるわけでもないことが認められるのであり、したがつて、右排気管及びマンホールの存在によつて本件車庫が独立して建物としての用途に供しうるものであることが否定されるものではない。

4  なお、〈証拠〉によれば、本件建物の区分所有者らは、日本開発株式会社(旧商号信販コーポラス株式会社)から各専有部分の譲渡を受けるに際し、本件車庫が本件建物の共用部分とされず、同会社において所有権を自己に留保し、これを車庫として希望者に賃貸するものであることを認識し、かつ異議がないものとしていたことが認められる。

第一審原告らは、マンシヨン分譲業者が分譲に際して全区分所有者の決議によることなく、個々の区分所有者との間で、共用部分たるべき建物部分を自己又は特定の区分所有者の専有部分と約定しても右約定は無効であり、また、もし同会社が本件車庫を自己の専有部分と考えていたならば、管理費を負担していた筈であるのに、全くこれを支払つていないというが、マンシヨン分譲業者が区分所有の対象となるべき部分を自己又は特定の第三者の専有部分として保留することについては、全区分所有者の決議を必要とするわけではないと解されるし、また、管理費を負担していないからといつて、このことのみをもつて直ちに右会社が本件車庫を自己の専有部分と考えていなかつた証拠とすることはできず、かえつて、右会社が各区分所有者への分譲に際して本件車庫を自己の専有部分として保留する意図であつたこと前記認定のとおりである。さらに、右会社が本件建物についての管理費を負担すべきものであつたとしても、その不履行によつて本件車庫が専有部分たる性質を失ない、又は右会社がその所有権を失なうことになるものではない。それゆえ、第一審原告らの右主張は採用し得ない。

5  してみれば、本件車庫は本件建物の共用部分ではなく、区分所有の対象となりうる部分であり、日本開発株式会社の専有部分であると認めるのが相当である。

(二)  本件倉庫について

1  〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

本件倉庫は、壁及び扉などにより区分された本件建物の部分であり、その内部をさらにブロツクの壁で二箇に仕切つてあるが、一階正面のロビーに近い部分(以下第一倉庫という。)の床面積は、他の部分(以下第二倉庫という。)の床面積の約四倍である。右各倉庫の内部には、ブロツク壁に接して木造の物置が並置され(第一倉庫では一四区画、第二倉庫では三区画)、本件建物の区分所有者の一部の者に利用されており、第一、第二倉庫には、それぞれ本件建物の共用部分である通路への出入口がある。第一倉庫の床には汚水及び雑排水の各マンホールがあり、内側の壁の一部には本件建物の共用設備である電気のスイツチ、積算電力計の配電盤並びに換気、汚水処理及び揚水ポンプなどの動力系統のスイツチがはめこまれており、右スイツチの操作のため、本件建物の管理人が一日三回程本件倉庫内に入らなければならない。また、第一、第二倉庫の各天井の高さはいずれも約2.89メートルであるが、床から約2.05メートルの高さの部分のいたるところに直径約一五センチメートルから同三センチメートルまでの大小の電気、水道等のパイプが通つている。そして、右パイプは、前記のとおり区画された物置の上側にある部分は金網で覆われているが、その他の部分は露出したままになつている。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件倉庫は本件建物の他の部分と壁及び扉をもつて区画されてはいるが、その内部には本件建物の維持管理上必要不可欠な電気、水道等を操作するための配電盤、各種配管等の共用設備が設置されており、その操作のために管理人が一日数回も出入りしなければならないというのであるから、少くとも右共用設備が存在する部分及びその操作並びに維持管理のために必要な部分は、区分所有の対象となるべき部分ではなく、本件建物の区分所有者全員のための共用部分たるべき部分にあたるものというべきであり、したがつて、前記物置が設置された部分を他の部分と区画して、これを区分所有の目的とするのであれば格別、かかる措置をとることなく、本件倉庫を前記共用部分となんら区画されていない現状のまま一体として区分所有の目的とし、これについて特定の区分所有者のため所有権保存登記手続をすることは許されないところといわなければならない(建物の共用部分であつても、区分所有者全員の書面による合意をもつてする規約によれば、これを区分所有の目的とするのを妨げないことは、建物の区分所有等に関する法律第四条第二項の定めるところであるが、本件においてそのような規約が定められたことについては、主張立証がない。)。

3  第一審被告は、第一審原告らは、本件倉庫が本件建物の共用部分でなく、日本開発株式会社の専有部分であり、同会社から賃借することにより利用しうることを了解していたものであるというから考えるに、〈証拠〉によれば、本件建物の分譲に際し、本件倉庫についても、本件車庫と同様に、右会社においてこれを自己の専有部分として留保し、これを区分所有者中の希望者に賃貸するものと定めていたことが認められるが、前記のように、共用部分たるべき部分の含まれる本件倉庫を、全体として、右会社が個々の区分所有者との間で、自己の専有部分とする旨を約定しても、右約定は共用部分たるべき部分に関するかぎり効力がないものというべきである。また、第一審被告は、少なくとも本件倉庫中の第二倉庫の部分には配電盤もマンホールもなく、管理人も出入りしないから、構造上、利用上の独立性があり、区分所有の目的たりうるものであるというから考えるに、〈証拠〉によれば、右第二倉庫の部分は本件建物の他の部分とは勿論、第一倉庫とも壁及び扉をもつて区画され、右扉から共用部分たる通路に出入することができ、内部に配電盤もマンホールもないことが認められるが、他方、その天井部分には前記のように、電気、水道等の多数のパイプが露出した状態で設置されているのであり、右事実によれば、右パイプを設置した部分は共用部分たるべき部分であり、これを全体として区分所有の目的とすることはできない。

四以上述べたところによれば、本件倉庫は第一倉庫及び第二倉庫のいずれもその内部に本件建物の共用部分たるべき部分を含むものであるから、同部分を区画しないまま、右第一、第二倉庫部分を一体として第一審被告の専有部分に属するものとしてなされた前記所有権保存登記は無効であるというべく、右共用部分の共有持分権に基づき右登記の抹消登記手続を求める第一審原告らの本訴請求は、理由があるから、これを認容すべきであるが、本件車庫は、第一審被告の専有部分であるから、これを共用部分にあたるものとして前記所有権保存登記の抹消登記手続を求める第一審原告らの本訴請求は、理由がないから、これを棄却すべきである。〈以下、省略〉

(安藤覚 森綱郎 奈良次郎)

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